禁煙の心構え

タバコが与えてくれたもの

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12年間喫煙者だった私から見た喫煙のメリットを一度整理したい。禁煙を考える上で、タバコを吸う理由とは別に、タバコが与えてくれたものを再考することは非常に重要だと思うからだ。その中で、喫煙者・禁煙者の双方を経た私の経験として、実際には長所ではなかった点も指摘していきたい。世の中にはイメージが先行していることが数多くあり、私の実体験として賛同しかねる点も多かったからだ。

 

タバコの長所は本当に長所?

喫煙者が感じているタバコのメリットは概ね以下ではないだろうか。

・ 格好良さ
・ 休憩の口実
・ リラックス効果
・ 暇つぶし
・ タバコミュニケーション

私はこの中で本当の喫煙の長所は「格好良さ」と「休憩の口実」しかないと思っている。一つ一つ説明をしていく。まずリラックス効果だ。喫煙でリラックス効果を得られていると感じているのは、喫煙者の勘違いである。これは科学的にもある程度信頼のある検証がなされているほか、私の実体験としても同意できる。このタバコのリラックス効果の虚しさを理解するには、ニコチンの役割を理解することが不可欠だ。

喫煙することで脳に入ったニコチンは、脳内にある「アセチルコリン受容体」にくっつき、快楽ホルモンとして知られるドーパミンの放出を促す。「アセチルコリン受容体」は、その名の通り、本来はアセチルコリンがくっつくべき場所なのだが、ニコチンがこれを代用してしまうことで、アセチルコリンが不要になり、その生成が鈍くなってしまう。結果として、ドーパミンの放出が、本来人間の身体に存在しないニコチンに依存してしまうことで、ニコチンが一定期間摂取されないとドーパミン不足でイライラしてしまうというのが通説だ。

簡単に言うと、タバコを吸うと確かにイライラが緩和されてリラックスするが、そもそもそのイライラ自体がタバコを原因とするものだということだ。タバコにリラックス効果があるという矛盾が理解できるだろうか?近年では、確かにタバコに純粋なリラックス効果やストレス抑制効果があるという論文が出てきているのも確かだ。一方で、引き続きタバコの害悪を示す論文が出ているのも事実であり、物事の一面的な事象だけ捉えてタバコを正当化するのは卑怯だと思う。私の感覚として、タバコを吸わなくなったら、タバコが吸えないことによるイライラは無くなって、タバコを吸っていた時よりも少なくともストレスがない生活を送っている。そのため、タバコに純粋にストレスを抑制する効果があったとしても、タバコを吸っている方がストレスを感じる頻度は多いと思っている。

次に暇つぶし効果だ。これは私も禁煙する前までは重要な喫煙のメリットと考えていたのだが、なくなってみると、その間にスマホをいじったりするだけであり、ハッキリ言って何の影響もない。むしろ、待ち合わせなどでいちいちタバコが吸える場所を探さなくても良いので、ストレスもなく、タバコがない方が快適ですらある。

最後にタバコミュニケーションだが、これは各人の環境にも寄るだろう。但し、私の実感としては悪影響はほとんどなかった。というのも、冷静に周囲を見回してみると、私が思ってた以上に喫煙者は減っていたのである。喫煙所で会うメンバーも大体同じで、その人たちとも同じような話しかしなくなっている。確かに社内の情報などは入ってきやすいが、喫煙所で得られる情報は1回一緒に飲みに行けば済む程度の内容でしかない。しかも、非喫煙者の方が人数が多いのだから、非喫煙者も含めて飲みに行った方が得られる情報も多い。影響がゼロではないが、何かに影響があるほどには大きくないというのが私の感覚だ。というか、別になくても問題ない。

 

本当のタバコのメリット

こうして突き詰めていくと、私の感覚では喫煙の長所は「休憩の口実」と「格好良さ」しかない。但し、こればっかりは何にも替え難い。まず、「休憩の口実」については、タバコは絶好のものだ。実際に私は禁煙して休憩時間が確実に減った。タバコを吸う人は確実に働いていない時間が長いと思う。喫煙者の特権ともいえるかもしれない。ただ、この辺りは企業によっては変革の動きもあるし、今後もメリットとして享受し続けられるかは微妙だ。禁煙してみて、こうした状況に非喫煙者が不公平感を感じるのは尤もなことだと思った。

一方で、「格好良さ」は確実な魅力だ。私の感覚では禁煙して本当に惜しかったのはこれだけだ。はっきり言って、タバコを吸うのはやっぱり時に格好良い(決して常に格好良いわけではない)。真冬にコートで吸うタバコとか、アジアの路地裏で吸うタバコとか、日の出とともに山頂で吸うタバコとか、絵になる瞬間は多い。そういう瞬間が自分から消えるのは悲しい。また、これに付随する感情として郷愁もある。楽しい時も辛い時も一緒にいたタバコが消えてしまう虚無感は何物にも替え難い。こうした感情こそが本当のタバコの長所であり、禁煙の最大のデメリットだと私は思っている

それでも一生感傷に浸っているわけにはいかない。「一生タバコに憧れをもって、タバコと付き合っていく覚悟があるか?」と問われると、答えに窮する。そして、タバコを吸っているのが格好良いのだとしたら、人生の相棒・郷愁を捨てて、振り返りもせずに去っていくのもロマンではないだろうか?そんな姿勢もまた格好良いのではないだろうか?私にはずっと感じ続けていたことがある。非喫煙者と禁煙者は全く違う。そして、自分の意志でタバコを辞めた禁煙者は、喫煙という合法的かつ一般的な快楽行為に対する好奇心すら持てない非喫煙者よりも、いつまでもタバコから逃れられない喫煙者よりも、きっと格好良いのではないだろうか?

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